「「学校の勉強が嫌い」 札幌の小学6年生を癒す「研究」」
「学校の勉強が大嫌い」。札幌市北区の小学6年鈴木新(さら)さん(11)は、そんな自分の気持ちをテーマに「研究」を続ける。「学校に行きたくない」と両親に訴えた新さんが、生きづらさを感じる人たちの自助活動「当事者研究会」に出合ったのは2年前。研究会に毎月参加し、大人に交じって人生の苦労を語り合う。5日は「こどもの日」。新さんの取り組みを通じて、学校生活で抱える苦しさとの向き合い方を探ってみた。
新さんが「しんどい」と感じるようになったのは、小学2年のころ。授業が難しくなって、算数の筆算や漢字の書き取りがつらい。学校に行こうと思うと、頭や体が重くなる。両親は「学校に行かないと大好きなゲームをさせない」と言うし、担任の先生に「なぜ勉強しないといけないの」と聞いてみたら「国が決めたからだよ」との答え。がっかりした。
3年の冬休み、じわじわ胸の中で膨らんでいた気持ちがついに爆発した。「学校に行くなら死んだほうがマシ。ゲームできなくてもいいから行きたくない」と泣きながら家族にお願いした。
精神保健福祉士でもある父和(わたる)さん(40)から「当事者研究会に行ってみる?」と誘われた。悩みごとを持ち寄る会らしい。「どうしたら学校を楽しめると思いますか」。
札幌市北区のカフェで毎月開かれている当事者研究会に初めて参加したのが2023年3月。精神障害や依存症を抱える人、人間関係に悩む大人たちの前で「勉強が嫌い」と話すと、なぜかすっきりした。「小学生の時に勉強が嫌いだった人はいますか?」と聞くと、ほとんどの大人が手を挙げ、勉強嫌いでも大人になれるんだと驚いた。
当事者研究を始めた精神障害者の活動拠点「浦河べてるの家」(日高管内浦河町)の理事長、向谷地生良(むかいやちいくよし)さん(69)も参加していて、「大事な苦労をしているね。一緒に研究しよう」と声をかけてくれた。初めは効果があるのか疑問だったけど、みんなの悩み事を聞くのも面白い。その翌月も参加することにした。
それから研究が始まった。テーマは「どうやって学校で勉強せずに過ごすか」。研究仲間からアイデアをもらい、学校で試した。授業中にパラパラ漫画を教科書に描いてみたり、保健室にかけこんだり。嫌だった学校が実験する場所に変わり、体が重たくなることも少なくなった。
「勉強しないのはずるい」と言うクラスメートには、「大事な研究中なんだ」と話すと、次第に理解してくれるようにもなった。初めは「勉強しろ」というオーラを放っていた先生の態度も「一問だけ解いてみる?」と変わってきた。
研究を始めてから2年、ほとんど学校は休んでない。昨年は韓国で、現地の当事者研究の専門家50人の前で発表した。
最近は将来の夢が見つかった。収穫体験で食べたレタスのおいしさに驚いたのがきっかけで、野菜農家になると決めた。研究仲間がプレゼントしてくれた野菜図鑑を読んで、野菜の勉強をするのが何より楽しい。
来年は、さらに授業が難しくなる中学校が待っている。不安だけど、仲間に「どうやったら中学校を楽しめるか」アイデアをもらいながら、研究を続けていくつもりだ。
子どもによる当事者研究について、手法を提唱した日高管内浦河町の「浦河べてるの家」理事長の向谷地生良(むかいやちいくよし)さんに聞いた。◇
24年前、統合失調症の当事者との対話から生まれたのが当事者研究です。自身の抱える問題を俯瞰(ふかん)的に眺めて「研究対象」とし、それを仲間と共有しながら「自分の助け方」を見いだしていくものです。形式化された方法論はなく、誰でも自由に実践できます。取り組みは各地に広がり、道内では札幌市や帯広市で研究会が開かれ、親子で参加できるオンライン研究会もあります。
当事者研究は子どもにこそ向いています。枠にはまらない発想を持っていますから。札幌市北区の小学6年鈴木新(さら)さんの研究は、彼が学校に行けるようになることが目的ではありません。大切なのは、行き詰まり感や苦労が人生における大切な経験であると知り、その苦労に誇りを持てるようになることです。
学校で問題が起きると、教師や親が原因や対応策を考えがちですが、主役は子どもです。子どもには自分自身で苦労を解消する力があります。問題を起こさず、失敗しないことを重視する大人の姿勢が、子どもたちを追い詰めていないでしょうか。苦労を乗り越えようとする子どもたちを温かく見守ることが必要です。
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当事者研究に関する問い合わせは浦河べてるの家、電話0146・22・5612(平日午前8時半~午後5時半)へ。
<ことば>当事者研究 精神障害者の活動拠点「浦河べてるの家」(日高管内浦河町)で2001年に始まった、対話による自助活動のプログラム。自身の苦労や問題を研究対象にして、当事者同士で語り合いながら考えた対処法を、生活の中で実践して検証を重ねることで、回復へつながる手がかりを得る。今は精神障害の当事者だけでなく、教育現場や少年院などの矯正施設でも取り入れられ、国内外に広がっている。
( 長谷川史子 )


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